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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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12月01日(水)

モモ・デザイン のファイター・ヘルメット

モモ・デザイン(MOMO DESIGN) は、高品質な自動車用パーツを手がける モモ(MOMO) というブランドから発展した、自動車部品以外の工業デザインを得意とするイタリアのブランドです。

モモ・デザイン は、その名の通り、 デザインやスタイル に対して高い情熱を持つメーカーなのですが、それが単なる表層的なアプローチに終始するのではなく、素材の品質や質感の研究に基づいた技術力を、製品化につなげている点に特徴があります。
チタン、カーボンファイバー、アルミニウム といった現代の素材を適所に取り込んでいますが、工業製品であるにもかかわらず、伝統的な素材であるレザーを組み合わせている点、敢えて手作業を残しているところに、 歴史に裏づけされた モノづくりの奥深さ を感じます。

このような モノづくりに対する考え方 は、実用品であるオートバイ用のヘルメットに 端的に表現されている といえるでしょう。

モモデザインのファイターヘルメット

これは、 モモ・デザイン の主力製品である 「ファイター(FIGHTER)」 と呼ばれるモデルに手を加え、2007年に発表された、標準仕様とは異なる 限定モデル です。
ファイター・ヘルメット のコンセプトは実に明快で、 航空機やヘリコプターのパイロット用ヘルメットが持つ 格好よさ から発想されています。 頭部を保護する という本来の目的と同じくらい 「気分よくオートバイを楽しみたい」 という、純粋な動機に情熱を注いでいるのです。

これに対し、日本の大手ヘルメットメーカーでは、 安全性と機能性、生産性に基づいて製品が開発されている といえるでしょう。 もし、両者を 数値 で比較すると、日本のメーカーに軍配が上がるに違いありません。
それは、当然 モモ・デザイン も承知のことと思います。 その上で、大きなメーカーではできないこと、自分たちでなければつくれないモノ を敢えて提示しているのだ と、僕は解釈しています。

限定版 ファイター・ヘルメット の特徴は、 カーフスキンのレザーを多用しているところ です。 防水性はあるようですが、ヘルメットの常識からは余りにもかけ離れています。
すべては一貫して、この カーフスキンのカラー によってコーディネートされています。

シールド(目の部分をカバーする透明な部材)は、熱処理による特殊な3次曲面加工が施され、周囲を傷つけないよう丁寧にカーフスキンで縁取られています。
シ-ルドの支持は標準仕様はカーボンファイバー製で、これですら驚異的なのですが、ここでは敢てアルミニウムを選択しています。 当然、エレガントなイメージが崩れないよう、バランスを重視しての判断です。
帽体の縁もカーフスキンで保護されています。 これらの作業のいくつかは、間違いなく手作業によるものでしょう。

モモデザインのファイターヘルメット

ヘルメットのロゴカラーがレザーと同色であるのは兎も角として、米国・デュポン社製の内装材までもが同色になっているのは驚きです。 何でも特注カラーだそうです。 内装材がシールド越しに外から見えるので、標準色では許せなかったのだと思います。
それにしても気持ちは分かりますが、ヘルメット一つのためにここまで情熱を注ぎ、やり遂げてしまう モノづくりの姿勢 には頭が下がります。

ファッションの世界では、服装にあわせて靴やバッグをコーディネートするわけですし、これらを使い分けることで、シックにも、スポーティにも演出できます。
もしオートバイにも、上品で控えめな乗りこなし(ファッションでいう着こなし)が出来るようになれば、それはオートバイを含む乗り物が 文化 となりつつあるのだ と、考えてみるとよいのではないでしょうか。 そして、そのためには数値や性能よりも、感性に訴える魅力こそが必要だと思うのです。

ところでこの限定版、発売前年に ミラノのモーターショー で注目を集め、既に完売しておりますのでご心配なく。
 
03月18日(木)

ベルスタッフのオイル引きブルゾン

日本人は、自分たちを取り巻く生活や自然のなかから様々な色を見い出し、その繊細な感性を美しい色彩名として表現してきました。
東雲色(しののめいろ)、 菜の花色(なのはないろ)、 露草色(つゆくさいろ) などです。
鳥から名付けられた色も幾つかあるようです。 朱鷺色(ときいろ)、 鶯色(うぐいすいろ) などです。

それにならって僕は、今回ご紹介するブルゾンの色を 「濡羽色(ぬればいろ)」 に例えてみたいと思います。
濡羽色とは、カラスの羽が濡れたときのような、艶のある深い黒色を表します。

ベルスタッフ(Belstaff) は、1920年代に創設されたモーターサイクリスト、つまりオートバイに乗る人のための、防水性の高い衣類を手がける英国のブランドです。
まだ、ナイロン素材に代表される化学繊維がなかった時代、綿生地に天然オイルを染み込ませることで防水性と通気性を兼ね備えた 「ワックスコットン」 と呼ばれる素材を採用した ベルスタッフ のライダースジャケットは、オートバイを愛する紳士たちに支持され、今日に至ります。

このオイルを含んだ黒いワックスコットンの質感をみると、日本人である僕は 「カラスの濡羽色」 を連想するのです(写真1)。

ベルスタッフのレースマスターブルゾン
(写真1)


ベルスタッフ のワックスコットンは、着込む程に味わいを増し、防水性が衰えても新たにオイルを浸透させることが可能という、とても魅力的な性格を持つ一方で、 触るとオイルが付着するため(特に新しい時)扱いには慣れと覚悟が必要なこと。 洗濯してはならないこと(ドライクリーニングも不可)。 ハイテク素材を駆使した便利で高性能な製品の台頭。 等の理由により、一時期は細々と生産を続けていた印象がありました。

しかし、21世紀に入って間もなく、生産拠点をイタリアに移行し(買収されたようです)、ブランド力を高める方向に転換しました。
伝統的なワックスコットンの生産を継続する一方で、伝統に敬意を表しつつ、現代のモードに配慮したヴァリエーション展開を図り、洗練されたブランドイメージが定着しつつあります。 その影響で、価格も段階的に上がってきていますが。

レースマスターブルゾン と呼ばれるモデルは、そのヴァリエーションの好例といえるでしょう(写真2)。

ベルスタッフのレースマスターブルゾン
(写真2)


オートバイに乗るということは、すなわち全身をさらして走行することなので、当然、風圧や危険から身を護るために衣類でガードすることが重要です。このため、伝統的な ベルスタッフ のモデルはジャケットの丈を長めにして、風でばたつかないようにベルトでしっかり締め付けていました。
これに対し、より軽快で、日常のファッションの延長線上にも位置づけられるように、丈を短く、全体をよりタイトにしたモデルが生まれることになりました。素材は昔ながらのワックスコットンで、デザインの要素も全て伝統を踏襲していますが、印象はかなり違ったものになっています(図1)。

伝統を継承したデザイン手法
(図1 伝統を継承したデザイン手法)


このような発想方法は、美しいモノに敏感で、伝統の重さも知っているイタリアという国の得意とするところであり、伝統の灯を絶やさないための一つの好例といえるでしょう。

カラスの濡羽色のような、含みのある繊細で美しい表現方法も絶やさず伝えたいものです。