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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
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07月01日(月)

マーカス・モストロームの京うちわ

創業200年、300年を数える京の老舗の、あの暖簾の向こう側の品々は、もともと日々の暮らしのための道具であったはずなのに、なぜこんなにも遠い存在になってしまったのでしょうか。
杉や竹、和紙といった身近な材料を、長い長い時間のなかで洗練を重ね、かくまでも薄く、軽く、消え入る直前にまで研ぎ澄まされた姿・カタチのため、そして何よりもひととき涼を得るために、幾つもの工程を経てようやく生み出される伝統の 「京うちわ」 ひとつ挙げてみても、これ程しなやかで美しく、実用性の高い道具はそうそうあるものではないはずなのに、いつの間にか、暖簾の向こう側とこちら側に大きな ズレ ができてしまっていたのです。

たとえ、ずっしりと歴史を積み重ねた老舗であっても、やはりこのようなズレはいただけません。
これはきっと、軽み(かろみ)が足りないからなのではないだろうか。 と疑問を抱き始めたこの頃、しっくりと手に馴染む スフェラ(Sfera) の京うちわ は、確かに伝統工芸品に違いないのだけれど、不思議なことに、何の変哲もない和紙に摺られた葉っぱのシルエットが、あんなに重かったはずの暖簾を軽々と吹き飛ばして、ふんわりさわやかなそよ風を届けてくれるのは、一体どういうわけなのでしょう。

マーカス・モストロームの京うちわ

「リーフ・パターン」 と呼ばれる葉っぱのシルエットは、スウェーデンのグラフィックデザイナー マーカス・モストローム(Markus Mostrom) が、スフェラの店舗ビルディングを手がけたスウェーデンの建築家ユニット CKR(Claesson Koivisto Rune) と協働で考案したグラッフィック・デザインです。
これを応用することで、カチカチの金属板に覆われた建物の外壁ですら、さらりと 軽み を体現してみせた。 それだけではありません。 たった一つの文様が、包装紙から手ぬぐいまで、日々の生活にささやかな 木漏れ日 をもたらしてくれるのです。

日本から遥か遠い、北の国から届けられたリーフ・パターンは、あの伝統のふっくらと光線を吸いとってくれる手漉き和紙の上、さくさくと小気味良く彫られたやわらかな木版に、そーっと顔料のせて摺り込むと、輪郭がじんわりやんわり滲んで、まるで風にそよそよ揺れる木漏れ日かと見紛う表情。 かっちりきっちり刷られた印刷物とはまったく別物の、この不思議な安心感は森のなか、大木にまもられる感覚に限りなく近いのだということに気づきます。
ふと何気なく、ほの暗い室内から庭に透かした京うちわは、僕の手を大地に、杉柄の幹をすっくと伸ばし、竹骨の枝を目一杯ぴんと張り、一面に緑の葉を繁らせた 一本の木 だったのだよと、森の国から生まれた ちいさなちいさな文様 がそっと教えてくれました。

マーカス・モストロームの京うちわ
 

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