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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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12月16日(日)

ケネス・グランジ・モデル

ただひとつ、部屋の片隅にぽつんと暖房器具があるのですが、かつて、ある方が 「何と古臭い!」 と失笑を禁じえなかった大阪ガスのファン・ヒーターが、僕にはどうしても非の打ち所の無いデザインとしか思えないのです。 だからといって、別にその評価が不快であったわけではなくて、むしろ、90年ちかくも前にこつこつ手づくりで建てられた町家の片隅で、せいぜい20数年あまり前につくられたにすぎない工業製品を 「古い」 と思わせるくらいに馴染ませてしまったデザイナーの力量に、ただただ感心するばかりなのでした。

ケンエス・グランジ・モデル

そもそもデザイナーとは、本来その器具が置かれるであろう空間のようすや、生活までを頭のなかで想い描いてから仕事をスタートすべきはずなのにと、そろそろ誰もが疑問を感じ始めていたであろう1980年代の後半頃、当時のガス会社が 「この人ならば」 と選んだのは、てっきりミラノ在住のきらびやかなスター・デザイナーかと思いきや、ロンドンで堅実にデザイン活動を続けていた ケネス・グランジ(Kenneth Grange) だったのでした。 実に通好みのチョイスではありませんか。

この賢明な依頼に対してケネス・グランジの出した答えは、日本人の生活空間にしっくりと馴染むような暖房器具を、日本の流儀にならって、礼儀正しく、誠実に、偽りのないカタチにパッケージングする。 ということだったのではないかと想像するのです。
どこをどうみても 安易な日本趣味 ではないモダンな工業デザインは、室内の冷え切った空気を背後からそっと取り込んで、ガスの炎で瞬く間にあたため、床を滑るようにしてゆったりと温風を吹き出すといった一連の流れが、そのまま口数少なげな、物静かな姿にまとめられていて、その 控えめな容姿 を一目みるだけで、何となくいにしえの、畳の上で行儀よく座っている人たちと、彼らの前でほんのり灯された明かりの下のちゃぶ台には、慎ましくも滋味豊かな夕餉(ゆうげ)が用意されている。 そんな、当たり前であったはずの、あたたかでささやかな生活のシーンを、僕はありありと想い描くことができる。

重心の低いきちんとした姿は、実際理にかなった美しいカタチで、かつては日本人の誰もが身に着けていた折り目正しい物腰のはずなのに、そんなこと、すっかり忘れてしまったかのように浮き足立った時代のなかで、ケネス・グランジは、こころの奥深くでひそかに憧れ続けていた、遠い異国の人々の慎ましくも美しい暮らしのようすを、あたたかい空気を届ける ファン・ヒーター のカタチに託したのだと。

ケネス・グランジ・モデル
 

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