プロフィール

アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

検索フォーム

05月01日(水)

宝ヶ池

なだらかに広がる京の土地も、そろそろ尽きようかと思われる松ヶ崎あたりから北側の、どんぐりの背くらべのように、ぽこぽこと愛らしい山々が仲むつまじく居並ぶその隙間を、危うくも縫うようにしてつたう坂道は、かつての難所 狐坂(きつねざか) で、その向こう側のちょっとした谷間にその昔、田畑に水を供給するためにつくられた農業用の溜池が、後に 「宝ヶ池」 と呼ばれるようになったそうで、おとぎ話のような美しい名に恥じぬ、何とも幽邃なところです。

池の周囲は山裾の地形をそのままに、ぐるりと遊歩道がめぐらされていることもあって、若きアスリートたちから杖をついたお年寄り、家族連れまで、それぞれがそれぞれの目的で思い思いに周遊する姿は、宝ヶ池の風景に違和感なく溶け込んでいるのです。
ここではほんの数百メートルの間に、アヒルやアオサギ、時には鹿などにも出会えるのですから、いつもは早足の僕も、知らず知らず歩みもゆっくりになっていたりして、ひどく暢気な自分に今更ながら驚いてしまいます。

池のちょうど真東あたりには、遊歩道から池側にひょいと突き出すようにして、コンクリート製の基礎の上に随分と古めかしい東屋(あずまや)が建てられていて、一体いつ頃からなのか定かではありませんが、実際それはかなり昔のものらしく、節だらけの、しかも太さもカタチもてんでバラバラの粗末な丸太を、そこは大工さんが手間隙惜しまず丁寧に、たぶん材料の刻みから何から現場でとんかんと手づくりされたものに違いなく、部分的に塗りこめられた土壁や、へぎ板を網代に編んだ天井も、長年の風雨にさらされた、いかにも東屋に相応しい姿をしているその場所からの眺めが、額縁に切り取られた絵画のように、実に完璧にレイアウトされていることに感心し、いにしえの匠たちの確かな仕事ぶりと審美眼ゆえに、いつまでも廃れることなくここに建ち続けているのだなと気付くのです。

まるで恋人の表情をどの角度からどのように眺めるべきかを心得た人のように、ちいさな東屋から眺める宝ヶ池の風景は、新緑の季節のわずか数日間に山々の、数え切れないくらい雑多な広葉樹のつくりだす表情が最も美しいことを、この土地の人たちはちゃんと知っています。 ただ、自然は生きているので、前年の暑さ寒さ、あるいは雨の多い少ないなどによって、毎年みせる表情は 寸分たがわず同じ というわけではないのもまた事実です。 そして、時刻や、気まぐれなそよ風や、光線の微妙な強弱によって、思いがけず水面が映し出す 鏡のような表情 も決して長くは続かないのです。
かつて、おとぎ話で聞いた、シンデレラの乗った カボチャの馬車 がそうであったように、これも一種 「魔法の産物」 なのかもしれません。

宝ヶ池
 

Trackback

URL :
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 

Comment