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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
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11月26日(日)

おかあさんの木

宮沢賢治 原作の 「いちょうの実」 という童話をご存知でしょうか。
北風がつめたい風を運んでくる、夜明け前のほんのひと時の、これから旅立とうとする 1000人の子どもたち(※ 熟した いちょうの実 のことです) の会話と、わが子を静かに見守る おかあさん(※ 大きな いちょうの木 のことです) の姿を綴った、宝物のようなお話です。

大人になってはじめて宮沢賢治の童話に出会った僕が、あの物語のなかの おかあさんの木 は、「きっとこんなのに違いない」 と信じて疑わない大樹が、ある大きな公園のちょうど真ん中あたりにどでんとあります。
公園 といってもそこは、ちょっとした森のような風情で、どの木ものびのびと気持ち良さそうに枝を広げているなかでもひと際、どっかりと根をおろし、その見上げるような立ち姿は、数多ある おかあさんの木 のなかでも、しみじみ 「おかあさんの木だなぁ」 との感慨を抱いてしまいます。

実際、物語とそっくり同じように、 おかあさんの木 の足元はちょっとした丘のようになっているものですから、遠足か何かでやってきた子どもたちが、大喜びで駆け上がってゆくのも当然といえば当然です。
最も賑わうのがやはり北風の季節で、まぶしいくらい黄色の葉っぱが、 はらはらはら と止めどなく舞い落ちると、やわらかな緑の草に覆われた丘が一面、ふかふかと、まるで黄色い絨毯を敷き詰めたような変わりようで、幾ら転がりまわっても、誰一人怪我することなく思う存分遊んでいられるのも、たっぷりと厚みがあって、しっとりと水気を含んだ いちょうの葉っぱ の恩恵なのでありましょう。

こんなに丈夫で美しい いちょうの葉 も、場合によっては、いえ、人の考え方 によっては意味を見失ってしまうものなのです。
ご存知のように、生命力が強く、公害にも負けない いちょうの木 は、その特徴から(人間の都合で)街路樹として植えられることも少なくないわけですが、どういうわけか、あの 黄色い絨毯 のような落ち葉が、 「車のスリップの原因になる」 との理由から、無残に枝を切り落とされる例が後を絶ちません。
そこで、ちょっとだけ考え方を変えてみて、 落ち葉で滑らないように車の速度を控えると、それまで以上に事故が減って、穏やかで住みよい街になるはずなのに。 もしくは、皆がすすんで清掃するようになれば、これまで以上に美しくゆたかな街に生まれ変わるはずなのに…。

子どもたちが10人手をつないでようやく手が届くくらい、おおきな幹まわりの おかあさんの木 は、一見すると何だか ごつごつっと しているようですが、ふいに、北風の冷たい日などに触れてみると、思いのほかあたたかいことに気付くでしょう。 人間も木も皆、同じように生きているのですから。

おかあさんの木
「おかあさんの木」  ペン、水彩

 

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