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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
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10月01日(月)

桜製作所のスツール

いつも僕のそばにある 二台のスツール をみる度に、以前、大阪のとあるギャラリーで拝見した木彫作品を思い浮かべます。 木彫作品 といっても、別に彫刻家によるものではありませんし、何しろ材料は、どれも使い道のない小さな 切れ端 なのですから…。

ジョージ・ナカシマ(George Nakashima) の家具製作で、つとに知られる四国の 桜製作所 では、丁寧に仕事をしても止むを得ず余ってしまう 「端っこの木材を入れておく木箱」 があるそうで、会長の永見さんは木箱の前を通る度に、その切れ端がどうも気になって仕方がなかったらしく、ある日、自らのデザインで、職人さんに目鼻を彫り出してもらうことで、人物の顔を表現する。 というアイデアを思いつきます。
木材の切れ端 といっても、きっちりと製材された 規格もの とは違い、大木のありのままの個性を損なわないよう、慎重に挽かれた板材はどれも、自然の形態を随所にとどめていますから、当然、端っこの部分はノコやカンナの入らない、いわば 手付かずの状態 なわけです。 その個性を 「人の顔に見たてた木彫作品」 として表現することで、小さな切れ端の最後の最後まで生かそうと試みたのです。

実は僕の 簡素なスツール も、同じく桜製作所の仕事なのですが、惜しみなく職人の手業を注いだジョージ・ナカシマの作風とは、明らかに趣を異にしてます。

桜製作所のスツール

素材はジョージ・ナカシマの家具同様、北米産の良質なブラックウォルナット材(クルミの木の一種です)なのですが、高度な手作業を駆使することなく、一貫した機械加工によって、無駄なく合理的に仕上られています。 腕利きの職人さんがずらり揃っている にもかかわらずです。
それはたぶん、「誰にでも手の届く良質な家具を、限りなくローコストで提供するためにはどうしたら良いのか」 を真剣に考えた結果なのだ。 と僕は想像するのです。

無垢のブラックウォルナット材は高価な材料ですから、脚は可能な限り細く、座板はなるべく薄く、サイズは統一する。 そして、職人さんの人件費を抑えるために、これまで最も得意としていた 手作業 を(感心するくらい)きっぱりと取り止めた。
ジョージ・ナカシマの家具だけでは、どうしても使い切れない、半端な部材が少なからず出るはずなので、そこから隈なく合理的に材料を調達する。
部材は細くても かっちり と組んであり、安定している。 座面は二枚に分割することで、一枚あたりの部材を小さくすることが可能で(つまり、無駄なく使える)、更に双方を微妙に傾斜させることによって、綺麗にお尻がおさまって、思いのほか座り心地がよい。 といった具合で、 来客の際の椅子として、あるいはサイドテーブルとして、時には踏み台としても自在に転用が利き、さり気なくその辺りに置いてあっても一向苦にならない。

では、一体どうしてそのような魅力を授かったのでしょうか。 材料が本物だから というのもまた事実ですが、 無垢材で出来ているからといって 全てが良い とは限りません。
どれほど作業工程を簡略化しても、ローコストを徹底しても、最後は結局 「つくり手の目」 なのではないでしょうか。

二台のスツールはよくみると、微妙にですが、色合いや木目の表情が異なっています。 同じ樹種であっても、その木その木で表情が異なるのが 自然 なのですから、職人さんは思う存分手を掛けられないかわりに、せめて 木の表情をきちんと揃えてあげている のだろうと思うのです。 ひょっとすると、同じ一本の木から選んでいるのかもしれませんね。
二枚が合わさって、ようやく小ぶりな座面となる板材も、よくみると 「木目がそっくり揃えられていること」 に気付かされます。 これは ブックマッチ(Book-matching) と呼ばれる技法で、広い面が必要となるテーブルの天板などで時折り見かけられるのですが、厚みのある板材を半分の厚さに挽き分け、ちょうど本のページを見開く要領で二枚の板を並べて継ぐと、左右対称の木目が現れる というものです。
スツールの座板の厚さは18mmくらいしかないので、仕上げを見込んでも4cm厚くらいの小さな板材があれば、このように美しい表現が可能となるのです。

桜製作所のスツール

そんなことを考えながら、ふと何気なく座板の裏側を覗いてみると、目立たない場所に、伐採される以前からあったと思しき 木のキズ というか 割れ のような跡が、ほんの少しだけ残されているのでした。
キズのような といっても、強度上何の問題もありませんし、普通に使っていれば誰も気付かない場所です。 それに、過酷な大自然のなかで、人の一生よりも遥かに長い時間を逞しく生き抜いてきた大木には、キズや割れはあって然るべきで、僕にはそれが何だか嬉しくさえあったのです。

普通のメーカーでは、ユーザーからのクレームを恐れて、このような仕上がりは あり得ないこと なのかもしれませんが、僕が想像するに、4cm厚の板材を削り出す際に、達人の直感で 「僅かにキズを残せば、この木を活かしきれる!」 と判断したに相違ない、と思うのです。 この木の ありのままの姿 を、このスツールを大切に使い続けてくれるであろう、一人の使い手に分かってもらえるはずだ と信じて…。

僕はその時、 この簡素なスツールにも、ちいさなギャラリーでみつけたあの小さな木彫作品にも、変わることのない 本当の職人魂 が注がれていることに、ようやく気が付いたのです。
 

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