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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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03月01日(木)

窓辺の小箱

名刺が600枚くらい収納できる木製の小箱。 本当は ネームカードボックス という洒落た製品名があるのですが、あえて僕は、寡黙で凛としたたたずまいにふさわしく 「小箱」 と、そう呼んでみたいのです。

その 小箱 は、使い勝手も考えて木製のチェストの上に置いてみたりもするのですが、なぜだか居心地悪そうな素振りで、寡黙なわりにははっきりと主張するところは主張する性質らしく、どうもしっくりと落ち着いてはくれないのでした。
ところがある日、掃除の最中にちょっと窓辺に移してみたところ、これがすっかり馴染んでしまって、かつての我が儘ぶりがまるで嘘のようです。 窓辺がよかったのですね。

ネームカードボックス

実は、このことに気づくまでに2年半かかりました。 などと、正直に申し上げたとしたら 「あなたという人は一体…」 とか 「なんと暢気な!」 と、皆さんあきれ返ってしまうかもしれませんが、空間に動きや変化を与えることは割合簡単なことなのですが、静謐な空間のなかで何かを加えつつ均衡を保つことは、なかなか容易ではないと僕は思うのです。 それよりも、80幾余の年を数えるまでに待ちつくした 窓 の気持ちに比べれば、2年半など、ほんのわずかな時間に過ぎないではありませんか(築80数年の建物に置いてあるのです)。

ところでこの小箱。 ブラックウォルナット(black walnut) と呼ばれる、北米産クルミ科の落葉広葉樹の無垢材で組み立てられているのですが、同じクルミ科のアジア産やヨーロッパ産の ウォルナット材 と比較すると、深みのある木理が特徴で、ちまたでは高級家具材として知られています。
その美しい素材の表情を損なわないよう、名刺のおさまる本体の側面と上蓋の側面とが、実は蓋を閉じた際にぴったり木目が一致するように、ぐるり四周とも一枚の板材から木取りされていて、立方体の箱として組上げられたその姿は、秘められた樹の生命力を損なうことなく、 いいようのない静けさをまとって生まれかわっていたのだ。 ということに、今更ながら気づかされたのです。

ネームカードボックス

やはり、このことを理解するのに2年半かかりました。 と告白しようものなら 「俺の人生って一体…」 と、この小箱をつくられた、腕の立つ職人の皆さんはさぞやがっかりされるかもしれませんが、どうかこれに懲りず、素材の声に耳を傾ける気持ちを忘れずに、益々精進していただきたいものです。
でも、そのような考えは杞憂にすぎないのかもしれませんね。 100年、200年と生き続けてきた樹木たちといつも対話をしているのですから…。
 

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