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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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01月01日(水)

伊万里の湯呑み

何かの用事で街を歩いていた折、とあるアンティークショップのウィンドウ越しに、思いがけず感じのよい器をみつけました。

最近よくある、作家ものの器など扱うギャラリーショップで度々みかける、自己主張の激しい、使う人の立場からというよりも、むしろ作品としての写り映えを意識したかのような雑念だらけモノたちに対し、そして、いかにも本来の暮らしから浮き上がってしまった浅はかさに、ほとほとうんざりさせられていた頃に、不思議と器の方からこちらに歩み寄ってくるような、あたたかな親しみを感じたのでした。 第一、普段 無地モノ にしか興味を示さないような、ある意味偏屈な僕が 柄モノ に惹かれたこと自体、とても珍しい出来事だったのです。
それは、 伊万里の湯呑み でした。

伊万里の湯呑み

意を決して何日か後に、なけなしのお金を握り締めてショップを訪ねますと、その器は既にウィンドウにはなく、桐箱のなかへと戻されておりましたが、所有するオーナーのお話によると、昔は親族など大勢の来客をもてなす機会も多いゆえ、それ用にまとまった数の器を用意していたそうなのですが、最近ではそのような慣習もめっきり少なくなり、とうとう扱いかねて市場に流れてしまう例も少なくないのだそうです。
確かに、以前ウィンドウでみた時の数倍の湯呑みが、古びた箱のなかにさも大切そうに仕舞われてありました。
そのなかから、僕の所持金で購入できる数(5個)を選び、タカラモノでも抱えるような心持で持ち帰りました。 確か、桐箱には毛筆で 「安永」 という元号がしたためてありましたので、その記憶に間違いがなければ1772年~1780年頃、つまり 江戸時代中期から後期 につくられたということになります。
湯飲みの側面にぐるりと描かれた模様は、唐草の一種なのでしょうか。
よく写真などで目にする(上等な)伊万里の器には、もっと精緻で凝った技巧の唐草模様が描かれていることが多いように思われますが、このちいさな湯呑みときたら、装飾的な工夫や高度な技術とは無縁の、何か 無邪気 というか、一切の束縛から開放された、自由でのびのびとした、すこぶるのどかな空気が遥か時を越えて、そのまま伝わってくるかのようです。

僕は文様についてはまったく不案内なこともあって、勉強のため少々調べてみると、唐草では 蔓系の植物 がモチーフとされることが多いようで、どうやら僕の湯呑みは スイカズラ の姿を写したもののように思われます。
このスイカズラを高度に図案化した唐草模様が 忍冬文(にんどうもん) と呼ばれ、古代より陶磁器はもとより、織物や瓦等の装飾として用いられていたらしいのです(※ ちなみにスイカズラの漢名が 忍冬 だそうです)
しかし、そのような歴史的背景などこれっぽっちも意に介さないかのような、江戸時代の工人たちのおおらかでのびのびとした仕事ぶりには脱帽です。
けれど何よりも、両の掌(たなごころ)でそっと包んだ時の 手触りの感覚 は、はじめて出会った時、ウィンドウ越しの視覚から得られた印象に何ら偽るところのない、素材に正直であたたかいものでした。

伊万里の湯呑み
 

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