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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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01月01日(土)

霞床席(かすみどこせき)

石畳を歩いていると子どもたちの声。
大徳寺塔頭のひとつ 玉林院(ぎょくりんいん) の門を潜ると、右手にちいさな保育園が。

厳しい感じのお寺かな と思っていただけに、そうなんだ と、納得しつつ奥へとすすみ、竹の格子戸を抜けると、そこには立派な本堂が。
仏様の前を失礼して、脇の濡縁からぐるりと裏手へまわると、少し間を置いて、鄙びた農家のような風情の(といっても洗練された)ちいさな 離れ のような建物が佇んでおりました。
農家のような と表現しましたが、ささやかなお堂を真ん中に、東西二つの茶室を備えているため、どうやら 茶事の形式で法要ができるつくり になっているようです。

庭 と呼ぶほど大層でもない、だから余計 のどか な気分にさせてくれる、南向きのテラスのような趣の、軒下に穿たれた障子戸をすらりと開けると、そこが 「霞床席(かすみどこせき)」 と呼ばれるお茶室なのでした。

霞床席 は 「書院造り」 と呼ばれる、武家屋敷に象徴されるような 格式ばった 構成を基本にしているのですが、 四畳半 というこじんまりとした広さのためか(通常の書院造りはもっと広い)、窮屈さもないかわりに場違いな緊張感もなく、また劇的な光の演出もなく、何だか普通に 居心地よい のです。

では、このお茶席にあるのは一体 何 かと申しますと、 「一帖の床の間」 。 これだけです。

普通の感覚では 四畳半 というちいさな空間に、 一帖の床の間 を入れてしまうとバランスが悪くなり、間延びしてしまうはずなのですが、そうならないのは、通常 床の間 に並べられるはずの 書院 や 棚 を排除することで、 ぐっ と空間を引き締めていること。 そして、あろうことか 「違い棚を床の間の真ん中に据えてしまったこと」 です。

床の間は、来客をもてなすために唯一、画や書を掛けることが許される場所なのですから、 違い棚は床の間から一歩譲って隣に と、こうなるところですが、ここでは軸を掛ける正面の壁から10cmくらい離して棚を浮かせ、背後にちゃんと画や書が掛かるよう、実に高度な 離れ業 が展開されているのでした。
しかし、普通の掛け軸では、折角の作品が違い棚に遮られて 台無し になってしまうため、3倍くらい幅広の軸に富士を描き、掛けたのです。

霞床席

するとどうでしょう。 富士の頂のやや下あたりに霞のように違い棚が漂い、奥行きのある特別な効果となって目の前に現れ、こじんまりとした四畳半の空間ゆえに 「富士がこんなにも雄大に見えるのだ」 と、気付かせてくれるのです。

他に何の必要もない 最高のご馳走 が用意されていたのですね。

それにしても、 このような独創的なアイデアをよくぞカタチにしたものだ と感心しますが、この仕事を成し遂げた大工さんは、誇り高い職人さんであったことは無論ですが、それよりも何よりも 「純粋につくってみたかったのではないか」 と思うのです。
そう思わせるに足るだけの魅力が確かにあった と、そのように思うのです。
でなければ、250年以上もこうして維持し続けけられるはずもありませんし、遥か時代を越えて、当時の純粋な気持ちが伝わり続けるはずもないのですから。

ところで、玉林院さんの保育園の園児たちは、みんな お茶の作法 を体験するのだそうです。 ちいさな瞳があの四畳半で、 霞たなびく富士の姿 をみつけたのかどうかは、僕には分かりませんが。
 

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