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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
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06月15日(火)

聴竹居の読書室

その曲がりくねった坂道を登りながら、木立に切り取られた石段の先の高いところにひっそりと、80年近く佇んでいる建物をみつけました。

聴竹居(ちょうちくきょ) と名付けられた美しい住宅は、設計者である 藤井厚二 が、愛する家族のために、それこそ丹精込めてつくり上げた20世紀の名作です。 驚くことに、ほぼ建てられた当時のコンディションで維持されています。

類まれな感性の持ち主である藤井は、数々の洗練された数奇屋建築を残していますが、良い意味での合理性をそこに融合できる知性をも持ち合わせており、 聴竹居 はその集大成でもあるのです。
それを語るだけで一冊の本が出来上がってしまうくらい、魅力的な空間が展開するこの住宅を実際に訪れてみて、殊更 心地よい と感じた場所が 「読書室」 でした。

聴竹居は、居室 と呼ばれる部屋を中心にして、食事室や客室、三帖の畳の間や縁側 といった異なる用途の空間が、付かず離れず、絶妙なバランスでつながっているのですが、そこにもうひとつ、ちいさくて目立たない 読書室 があったのでした。
この部屋、2.5m×3m と、四畳半にも満たないスペースに 3人分の机や棚 がしつらえてあるのですが、普通の感覚では 3人には窮屈かな と思われるところ、(居室から入って)正面奥の壁に一人、左側面の壁に二人並んで各々が壁に向かう格好になって、それでも不思議と窮屈さは感じず、むしろ3人の距離感が部屋全体の構成と同様に、付かず離れずで巧みな位置関係になっているのです(図1)。

聴竹居の読書室
(図1)


ところで、3人の利用者は 誰か といいますと、 お父さん、つまり一家の主でもある藤井厚二自身。 そして二人の娘さんです。

普通は 「子ども部屋」 と称してベッドルームに学習机など置いて、身動き取れない状態になってしまうのが常ですが、本来 就寝の場 と 学習の場 は異なる環境になって然るべきであって、それを一室に閉じ込めてしまったこと自体矛盾している。 と 僕は思うのです。
ちなみに聴竹居の場合、やや奥まった 四畳半の座敷 に娘さんたちが、その隣の 六畳の間 に藤井ご夫妻が襖を隔てて 「寝室」 として利用されていたようで、日中布団を片付けてしまえば、すっきりとした畳の間として、お茶室のような清楚な佇まいをみせていたのではないか と想像します。

更に想像すると、藤井自身、同じ敷地内に 「離れ」 として自らの書斎にあたる建物を所有していたため、普段はそこに篭って研究や設計に勤しんでいたのでしょうが、時折、気分転換に読書室を訪れて、仕事を忘れ 読書 に耽ったのではないでしょうか。
そのような時、いつもは勉強に気乗りしない子どもたちも、ちょっとだけ離れて立派な お父さんの背中 をみつけると、何だかやっぱり嬉しくて、一つ部屋で背を向け合っていても、言葉も必要としない 満ち足りた気持ち に包まれたのではないでしょうか。

このちいさな部屋にいると、何故か、そのような遥か昔の出来事に想いを馳せてしまうのでした。
 

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