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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
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09月01日(水)

柳宗理のカトラリー

僕たちは 日に三度の食事 の度に、必ず カトラリー を使うようになり、今では生活道具としてすっかり身近な存在です。 既に、あまりにも身近すぎて、 指先の延長にあるモノになっている といってもよいかもしれません。

そのような意味から、カトラリーは 食事 という大切な行為の際に、 手と口をつなぐ橋渡しの役目 を担っているわけですが、それ故に 「存在自体が気にならないくらいの存在感」 が実は重要なポイントで、用の美に徹しながらも悪戯に主張しないくらいの加減。 そのあたりの微妙な さじ加減 を心得たデザインが成されているべきだと思うのです。

柳宗理 のデザインで1974年に登場した一連の ステンレス製カトラリー は、これらの条件を完全に満たした製品である。 と お伝えできる自信がありますし、 「これだけの仕事は到底できないな」 という(正直な)自信も僕にはあります。

柳宗理のステンレス製カトラリー

イタリアのキッチンウェア・メーカーからは、名だたる工業デザイナーや建築家が手がけた、それは美しいカトラリーが販売されていますが、いざ食卓に並べたと仮定すると、どうもカトラリーの主張が強すぎて、落ち着かないというか、肝心の料理との調和を考えると、 どうかな? と思うのです。 これには食文化や生活習慣の違いも関係しているのかもしれませんが…。

しかし、これが柳宗理のカトラリーになると、すっかり肩の力が抜けきってしまって、自然と食事に集中できてしまうから不思議です。 デザインに対して余計なことをしていないんでしょうね。 きっと。

この 「余計なことをしていない」 は、もちろん 「何もしていない」 からなのではありません。 その証拠に、どのカトラリーひとつ挙げても、 これ以上手の加えようがないくらいにデザインが 完成 しているのですから。

これだけのカタチに至るためには、 途方もない時間の試行錯誤 を繰り返していることは想像に難しくありませんし、デザイナーである柳自身が常に 「手を使ってカタチを考えている」 という話は殊に有名です。

実際、目を閉じてこれらのカトラリーに触れてみると、あれ程硬く冷たいはずのステンレススチールが、思いがけず手にやさしく馴染んで、ちっとも痛くないのです。 目を開けて先程手で触れたところをみても、そこにはいささかの ブレ も見当たらなくて、 つくり手 が 使い手 のために正直にデザインしているんだな と、しみじみ実感してしまいます。

このような仕事を、柳宗理は アノニマスデザイン(anonymous design) 、つまり 「無名的なデザイン」 と名づけ、実践しているのです。 これを僕は 良妻賢母的 あるいは 大和撫子(やまとなでしこ)的 デザイン と勝手に翻訳して、深く心に刻みたいと思います。

柳宗理のステンレス製カトラリー
 

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