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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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07月01日(火)

町家の歯医者さん

今思うと不思議なくらい、感じのよい歯医者さんのお話です。

歯医者さんを好んで通う人がお世辞にも多くはない という事実は、当のお医者様自身もお気づきのようで、患者が居心地よいように、診察室には何かしらの工夫が凝らされています。 たとえば音楽を流す とか、診察台のそばに絵をかける とか、子どものために ぬいぐるみ を飾っておく等、いろいろあります。

そこで、僕が随分以前に、確か一度か二度、診ていただいた 歯医者さん ですが、記憶には曖昧模糊なところもあり、場所さえも定かではないくらいの頼りなさなのですが、確か中京の東のあたり、鴨川に程近い、ちいさな通りの奥まった 仕舞屋(しもたや) と呼ばれる静かな趣の町家でありました。

どうやって町家の歯医者さんを探し出したのか、今となっては全く思い出せませんが、医院らしからぬ、こじんまりとした住宅の客間のような待合を抜けると、やはり 住宅の座敷 のような診察室があり、いかにもその場にふさわしい、お年を召されたお医者様が居られました。

診察室はたいへんちいさな庭に向かって開かれておりました。
町家ではお馴染みの、濡れ縁を渡ると奥まったその先にお手洗いがあろうと容易に想像されるその庭は、まるごと池になっていて、実に優雅に鯉が泳いでいるのでした。
診察室は、すっかり庭に開け放たれていたものですから、水面に錦の背がちらちらするのを眺めやりながら、音楽すらない、わずかに水の跳ねる音のみ聴きながら治療をしていただきました。

谷崎潤一郎 は昭和八年に発表した 「陰翳礼讃」 のなかで、昔の日本家屋の持つ落ち着いた柔らか味のある環境が医院としても好ましいのだ といった意味のことを、西洋の最新医療に比較して書かれておりましたが、あるいはそれを読んだ当時の若き医師が、自らの理想を重ねて実現されたのでしょうか。

いつまでも心に残る 理想の歯医者さん のお話でした。

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