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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
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09月01日(月)

無印良品の石けん置き

「そんなつまらないモノ、評価したところではじまらないよ」 と、あなたはいうかもしれませんが、さして目立たない脇役の、そんなに高価でもない日々の生活道具を、正直に、手を抜かずつくり続ける人たちの仕事を、時にはきちんとみつめてみたいのです。

消費者の視点に立って、徹底的に無駄を省いた、シンプルで使いよい 無印良品 のプロダクトが、どれも素晴らしいとは思いません。 たとえば、無垢の木材を使った手ごろな価格の家具があったとして、製品化をするなかで、無駄なこととして切り落としてしまったもののなかに、目にみえない大切な 何か があったとしたら、いくらシンプルで低価格であっても、どこか無理しているようで、つらい気分になってしまいます。
ガラスや磁器、木綿といった素材もまた然りです。 ぱっとみたところ雰囲気よさそうでも、大切な 何か を失ったモノたちにどれだけ囲まれたとしても、結局、いつまで経ってもこころは満たされない。 そんな生活、どこか悲しいように思えて仕方がありません。
それよりも、昔っからある、MDFボードを単純にネジで留め付けただけの、組立式収納家具のようなプロダクトのほうが、はた目には安っぽくて貧しいかもしれないけれど、それでも健康的なシンプルさがあって、むしろ格好よいとさえ感じるのです。
だから、プラスティックのようなチープな素材を、恥ずかしがらず、真正面から生真面目に扱って、考えに考えてつくったちっぽけな日用品にこそ、このブランドの 素顔 を垣間みることができるような気がするのです。

無印良品の石けん置き

かつて、無印良品が アクリル製の石けん置き を製品化していたことがあります。 たまたま店頭でそれを目にした僕は 「ついに庶民派ブランドが、理想のカタチに辿り着いたな」 と、感慨に浸ったものです。
プラスティック製品を製造する方法に、 射出成形 と呼ばれる技術があります。 やわらかくなるまで加熱した樹脂を金型という箱に押し込み、固形化して取り出すと、いくらでも同じカタチと品質の製品が製造できるというものです。 金型はちいさなものでも数百万円するともいわれていますが、大量に生産することで安価な製品を市場に流通させることができるという利点があります。 無印良品の石けん置きも、ご多分にもれず、この射出成形によってつくられているというわけです。

世のなかは、安易なプラスティック製品であふれ返っています。 それらの多くは、一種の ムード でデザインされているとしか思えません。 大して意味のない、その場しのぎ、間に合わせのモノたちは、つくり手の想い入れがない。 想い入れのないモノは、すぐにゴミになってしまいます。 けれども、石油やエネルギーを大量に使って、恐ろしいほどの量が生産される様子を想像できる消費者は少ない。 モノに満たされてもこころは貧しいという 負の連鎖 に気づく人は、更に少ないでしょう。
それでも、ほんの一握りのデザイナーは気づいている と、僕は信じたいのです。 少なくとも、このアクリル製の石けん置きをデザインした人は。

無印良品の石けん置きは、石けんを載せる 受け皿 の部分と、受け皿を支える 受け箱 の部分との二つの部材で出来上がっています。 受け皿は、濡れた石けんがべとべととくっつかないよう、二箇所の突起によって持ち上がるようになっていて、その中央に水抜きの穴が一箇所だけ空けられています。 水は下の受け皿に溜まる仕組みです。
どれもこれも、取り立てて目新しいアイデアではない、生活の道具に必要な当たり前の機能です。 当たり前の機能を満たしながら、目障りにならない美しいカタチを、工場の生産ラインと素材の特性とをきちんと理解した上で、現実のものとする。 それこそが本当のデザインなのですから。
石けんがべとつかないよう、水ぎれをよくして、下に水が溜まる構造から、自ずと二つの部材の組み合わせで、中空の部分が生まれます。 その隠された中空部分を、アクリルという素材を採用し、透かしてみせてしまうことで、思いがけず透過する光が交錯する、重層的で豊かな表情を生み出すことになったのです。

アクリルは、ガラスかそれ以上に透明度が高く、強度も高いという利点がありますが、その反面、日常的に使用するうちに、表面にこまかいキズがついてしまうことが容易に想像できます。 限りなく透明な石けん置きが、デザインとして格好よいことは重々承知の上で、このデザイナーは、あえて外側の表面にやわらかいフロスト状の加工を施して、透過度をおさえることを良しとした。 そうすることで、知らず知らずについた表面のキズも目立たず、受け箱に溜まった白濁した水も苦にならない。
外形は、この手の樹脂製品にしては、潔いくらいにシャープなラインを残していて、それでもよくみると、必要に応じて微妙な丸みは確保しています。 コンマ数ミリ単位での、厳しい吟味の末に導き出された形態に、もはや、ムードだけでデザインした製品が遠く及ばない、ある種の 境地 のようなものを感じるのです。
それでも、石けんを載せる受け皿の内側だけは、清掃しやすいように、思いのほかやわらかいカーブを取り入れていたりする。 ひょっとすると、使う人の安心感を、そこはかとなく抱かせるために仕組まれた、高度なデザイン手法なのかもしれません。

これほどのデザインが成されながらも、このブランドでは、デザイナーの名が表にでることはありません。 稀に著名なデザイナーが参画することもあるようですが、それは左程重要なことではないのでしょう。
アノニマス(anonymous:作者不明の)デザインのお手本ともいえる、このアクリル製の石けん置き。 実は数年間販売されただけで、ポリプロピレン製の、丸みのある、無難(というか、ありがち)な製品に取って代わられ、短命に終わったらしいのです。 消費者からの評判がよろしくなかったのか、あるいは環境負荷の少ない素材へと方向転換したのか…。 それは、今となっては定かではありません。 しかし、僕の手元にある石けん置きは、この先、ゴミとなることはなさそうです。

無印良品の石けん置き
 

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