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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
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02月16日(日)

サンタ・マリア・ノヴェッラ の歯磨き粉

僕が 「清貧」 という言葉を知ったのは、太宰治の 「きりぎりす」 という短編小説からでした。 学校では、このような美しい響きの言葉を習った覚えなどありませんから。 といっても、授業にはちっとも興味がなくて、きちんと聞いていたためしがなかったのですが、やはり、どうもそんな気がしているのです。
そんな、控えめでゆかしい響きを持つ言葉の糸を注意深く手繰ってみると、どうしてか 「サンタ・マリア・ノヴェッラ(Santa Maria Nobella)」 の、ささやかな日用品に行き着いてしまいます。
サンタ・マリア・ノヴェッラは、13世紀のはじめ頃、イタリアのフィレンツェにある修道院で修道僧自らが薬草を栽培して薬剤を調合したのがはじまりとされる、現存する世界最古の薬局といわれております。

薬局といっても、薬事法の関係か、日本では医薬品のようなものではなく、ハーブウォーターや石鹸、シャンプー、ハンドクリームといった日用品が販売されています。 それらはどれも、近所のスーパーマーケットに並んでいそうなものばかりなのに、あのスーパーの陳列棚にずらり並んで賑やかな、派手派手のパッケージとは似ても似つかないくらいに、マンタ・マリア・ノヴェッラの品々は、ロゴもなんだかちいさくて、地味地味なデザインではありますが、つまるところ我が家に持ち帰って使うものであって、べつに目立って主張する必要などこれっぽっちもないわけですから、毎日顔合わせてもしみじみ美しい、地味で上品なパッケージのほうが絶対良いに決まっているのです。

サンタ・マリア・ノヴェッラの歯磨き粉

殊に 歯磨き粉 などは、昔ながらの金属のチューブ入りだったりするものですから、いい加減に使っていると途中でひび割れて、下手すると中身が隙間からはみ出したりもしてしまいます。 だから、ちょっとずつ、ちょっとずつ、丁寧にしぼり出さざるを得ない。 しかも肝心のペーストはベージュ色で、その歯磨き粉らしからぬ色彩が実は、人工的な研磨剤や着色剤を用いていない、動かぬ証拠でもあるのです。
主な原料は アイリス(※日本でいう ハナショウブ にあたるのでしょうか) の根っこを粉末状にしたもので、これが天然の研磨効果を持っているという、ひどく納得というか安心できる理由であったりします。 それを丹念に練り固めてペースト状にしておいて、そこにクローブ(丁子)、シナモン、サンタマリア草といった、香りのよい草花をさりげなくブレンドして、それだけでおしまい。 ごてごてと余計なことをしていないのは、パッケージだけではなく 中身も同じ というわけです。

サンタ・マリア・ノヴェッラの日用品はどれも、本来必要とする当たり前の機能(効能)に加えて、ほんのちょっぴり、ほんにささやかな香りを添えてくれています。 その香りは、巷にあふれる人工的で主張の強いものとは違う。 そう、ぴりりと底冷えのする、冬の早朝におもいっきりガラス戸あけ放って、苔むす庭に水を打ったときにしんと立ち上る、目にみえない浄化された、土のにおいか、あるいは苔の香か、ほんのかすかな香りを吸い込んだときのほのかな心地よさに、どこか相通じる 何か を意識するのです。 それをあえて言葉で表現するとしたら、僕はやっぱり 「清貧かな」 と思います。
 

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