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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
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04月16日(木)

ウォルシュ のレザースニーカー

ずいぶん以前にレザースニーカーを買ったことがあります。 詳しいことはよく分かりませんが、それでも控えめなタブに 「BOLTON ENGLAND」 と記されてあるので、なるほど英国製なのだな、ということくらいは分かりますし、つくり手がどんな想いを託したのかということも、何となく理解できるような気もするのです。
モノのほうから語りかけてくる。 というと、皆さん不思議に思われるかもしれませんが、もちろん モノそのものが声を出す というわけではなくて、人の手でつくられたモノには、つくり手の気持ちがちゃんと込められていることがあって、それが使い手に、こころを通して届くことが稀にあったりするものなのです。 それを、脳が一種の 声 として翻訳する。 言葉では、英語ができないと理解できないけれど、モノであれば言語は必要ありませんから、こんなときは重宝します。

ウォルシュのレザースニーカー

「walsh(ウォルシュ)」 のスニーカーには、他の有名メーカーのように、カリカリととんがったところがありません。 あっと驚くような斬新さも、最先端のテクノロジーもありません。 巷で人気の売れっ子デザイナーを起用しているわけでもありませんし、もしかしたら社内にデザイナーといえる人すら存在せず、職人がデザインから制作までを手がけているのかもしれません。 そのくらい正統派で、頑なに伝統の技を継承し、真摯なモノづくりをしているような におい がする。 とでも説明したらよろしいでしょうか。
素材をきちんと理解し、小手先でちょこまかと余計なことをしないし、おせっかいでない。 これほど地味な面持ちのスニーカーには、今の時代、なかなか出会えないものです。

この、地味なレザースニーカーをつくった職人さんはきっと、すっかり使い込まれ、擦り切れた前掛けを纏い、幾分白髪まじりの髪を無造作に撫でつけて、眼光するどく 「果たして君に、このスニーカーを履きこなすことができるかな?」 とでも、いっているような気がして仕方がありません。 もう、胸を張って自信満々といった様子で。

職人さん自慢の素材は、靴ひもと靴底を除いては、中敷きを含め全てレザーです。 気持ちがよいくらいに迷いなく、しかも厳選されたレザーは、主に、革の裏面を起毛させて、しっとりふんわり仕上げた黒いスエードを採用し、足に直接触れる部分には、更にやわらかく、しっとりしなやかな革(羊、あるいは鹿でしょうか)を茶に染めて、でしゃばらず、限りなく上品なイメージにまとめています。
いずれもレザーは上質で、しかも、普通の革靴で用いられるそれよりも、かなり薄いものが意図的に選ばれています。 スニーカーは、軽くなければ意味がありませんから。
レザーの優れた特性は、見た目の美しさや質感、通気性のほかに、擦り切れにくく耐久性が高い点があげられます。 このスニーカーはよくみると、つま先や、靴ひもを通す穴のまわりは外側から2重に、かかとやくるぶし、甲のあたる部分は裏側から2重に、という具合に入念な補強が施され、外側と内側の切り替え部分をぴったり一致させて、ミシンのステッチがうるさくならないよう、すっきりあっさりと仕上げられています。
このような、さり気なく隙のない高度なデザインは、靴の特性を隅々まで知り尽くした職人でなければ成し得ないはずで、しかもそれが、職人気質といった頑固さをつゆほどもみせず、洗練された表情にまとめてしまうのですから、つくづく大したものです。

だから僕は、靴ひも結ぶときも、アイレット(※ 靴ひもを通す穴のこと。)の一番上まできっちりと編み上げて、きりりと締め上げる。 半分くらいのアイレットで、いい加減に結んでずぼらに脱ぎ履き… 、なんていうことは絶対にしません。 つま先とかかとだけを芯で補強し、あとはぺろんとした革だけで潔く勝負しているスニーカーは、きちんと靴ひも結ぶことで、薄くしなやかな革がしっくりと足に馴染む。 そんな、ブーツのかっちりとしたフィット感とはまた異なる安心感がある、軽やかなレザースニーカーの感覚を、僕は日本の 足袋(たび) に例えてみたいのです。
現在の足袋は、 こはぜ と呼ばれる金具を留めて履くわけですが、それ以前は ひも で足首に結び付けていたようですし、素材に布が用いられるようになったのは、江戸時代からの話で、それよりも以前は、やわらかい鹿革などでつくられていたそうですから、いにしえの日本人の 革の足袋に草鞋(わらじ) という組み合わせを、レザースニーカーの、ゴム底に革の甲を縫い合わせた 編み上げ姿 にだぶらせたとしても、あながち間違いではないと思いませんか。 誇り高い英国の靴職人さんが、そこまで知っていたかどうか、知る由もありませんが。
 

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