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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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10月15日(土)

東滴壺(とうてきこ)

大徳寺塔頭のひとつ 龍源院(りょうげんいん) を訪ね、しっとりと黒光りする、ほの暗い庫裡の廊下を抜け、方丈へとつながる茶堂廊下に出たその刹那、信じられない空間に出会うのでした。
そこは方丈と庫裡、二棟並んだ建物の 狭間 としかいいようのない場所。

東滴壺

それは大きく軒を張り出したお互いの建物が接触しないよう、ほんの一尺(30cmくらい)ばかりすかしたために、その下に廻らされた濡縁との間にぽっかりと空いた場所が、双方を行き来するために渡された二本の廊下によって否応なしに切り取られてしまって、これが何とも心細くなるような、実にか細い、ざっと目視で7尺×25尺(210cm×750cmくらい)の 壺中の領域 が生まれてしまった。

ここに庭をつくろうと思い立った方は、仏門に仕える者として、植物を植えるべきではない(息苦しくて忍びないから)と判断し、控えめな姿の石と砂のみの 「偽りのない配置」 に至ったのではないだろうか などと、勝手な想像を抱いてしまいます。

こと京都のお寺に限って、植物に頼らず、乾いた石と砂のみで 水 を表現できるのは、それらを取り囲む濡縁や建具や軒裏の木材に含まれた、目にみえない 「しっとりとした水分の存在」 に助けられているからに違いありません。
もし、コンクリートや金属に囲まれた空間に枯山水の庭園をつくったとしても、おそらく本物以上の 水の表情 は生まれ得ないのではないか。 と、そんなふうに思うのです。

東滴壺(とうてきこ) と名づけられたこの庭は、実に目立たない、ちいさな平たい石から円形にひろがる波紋に端を発しているわけですが、 ほんの一滴の水が波となって、思いがけず縁板の下にまでおよんでいるのを、 そして砂の凹凸の描く陰影が限りなく変化しつづける様を見出した時、 知らず知らずのうちに僕自身、庭の一部になってしまっていたのだ と、ふと我に返ってからようやく気づくのでした。

東滴壺
 
10月01日(土)

星の王子さま

サン・テグジュペリ原作の 「星の王子さま」 が、世界ではじめて出版されたのがアメリカ。 1943年のことでした。
今、手元にある本は、2000年。 つまり サン・テグジュペリ 生誕100年の年にオリジナルのレイアウトで復刻されたもので、出版社も当時と同じだと思われる英訳版です(ちなみに原作はフランス語です)。

The Little Prince
「The Little Prince」
サン・テグジュペリ(ANTOINE DE SAINT-EXUPERY) 作・絵  (HARCOURT,INC)


さて、この復刻版を読むためには、少なくとも小学校高学年以上の語学力が必要なのですが、不幸なことに僕の英語は小学校低学年以下ですから、断片的にしか理解できませんでした。 おまけにひどく眠くなってしまうのです。
「それなら君、日本語版を買えばいいじゃないですか」 と、そうどなたもおっしゃるかもしれませんが、ぜんぜん違うのです。 本の縦横の比率のバランスから、イラストレーションと文章のバランス。 発色に至るまで…。

子どもがみている 大切なもの を、大人はちっとも気付いてくれない。
それどころか、子どもの想像力や表現力の 芽 を大人(教師を含めて)が摘み取ってしまうなどということ は、今も変わらない悲しい事実です。 なぜそう思うのかというと、僕自身も子どもの頃、同じような疑問を抱え、悩みながら成長したのですから。
だから、作者が幼少の頃好きだった絵をあきらめてパイロットになった気持ち。 ほんの少しですが、分かるような気がします。

王子さまと作者(サン・テグジュペリ)との間で交わされる会話には、僕たちがついつい見失いがちな 大切なもの がいっぱい詰まっていますし、王子さまと動物たちとの会話にも、同じ 輝き が隠されています。
だから、作者は自ら絶っていた絵筆を再びとって、イラストレーションを添えたのだろうと思うのです。
ただ技術的に 達者な絵 を添えたいのであれば、プロに依頼すればよいわけですが、きっと、ここで必要なのは、上手とか下手とかではなく、文章と寸分偽りなく表現されたものでなければならなかったはずです。 ほんの少しの作為さえも許したくなかったのでしょう。

ことに、表紙をめくって何ページ目かの、タイトルに添えられたイラストレーションに、僕は強く惹かれます。
それは王子さまが故郷の星を旅立つシーン。 「渡り鳥たちに引かれて飛び立ったに違いない」 と、作者が想像して描いたシーンです。
これは、飛行機で思う存分世界中を飛び回った作者が、ずっと想い描いていた理想の姿を ちいさな王子さま(Litte Prince) に託したのだ と、そんなふうに感じるのです。