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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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12月15日(水)

小さな森の家

小学生の頃から 住宅の間取り を想像することが好きだった僕は、中学に上がった頃には、かなり明確に 建築の設計を学びたい と考えるようになっていました。 ところが学校の授業ときたら、ちっともクリエイティブではなくて、単なる 要領の世界 だったものですから、もっと 「本当に大切なことを学びたい」 という、漠然とした不満を抱くようになっていました。

このような気持ちを担当の教員に伝えようと試みましたが、どういうわけか彼らの多くは、予め約束された教則本(マニュアル)の範疇からはみ出そうとする子どもを 駄目人間のカテゴリ に振り分けたがるために、僕は少なくとも表向き 問題がある生徒 とみなされていたようでした。
たぶん彼らは、専門的な知識は大学で得るべきであって、そのために進学校へすすまねばならないのだから、まずは中学のプログラムだけに従うことを望んだのでしょうが、そもそも現実の教育がそんなに単純な理屈でよいはずがありません。 人間の感性や人格は、頭や心のやわらかい年齢のうちに確定するところが大きいのですから。

自身で行動するにはあまりにも若く、何ら責任を果たせない少年少女にとって、その一瞬一瞬はかけがえのないもので、純粋な 志 を見失うことはとても辛く悲しいことなのですから、一足先に大人になった僕から、そのような 志 を抱く若い人たちに、このささやかな一冊の本を薦めたいのです。

小さな森の家(軽井沢山荘物語)
「小さな森の家-軽井沢山荘物語」 吉村順三 著   (
建築資料研究社)

この本は、建築家の 吉村順三 が、中学生の頃から夜行列車に乗って何度も旅した思い出の地、軽井沢の静かな森のなかにそっと建てられた、自身と愛する家族のための 「山荘」 についてを、設計者としての立場からだけでなく、住まい手としての暮らしぶり、それから四季を通してのその土地の様子までを(専門家だけでなく)誰にでも分かりやすく綴った物語で、何だか絵本のような趣です。
だから、別に大学生でなくても、たとえ進学校に通っていなくても分け隔てなく、一人の建築家が、一人の人間として一軒の家に託した、深い深い 志 を学ぶことができるのです。

どのページを開いても、写真や図面、スケッチに添えられた吉村の文章が、専門用語を使わず普通の言葉で、気取らず素直に、しかし 奥行きのある大切な事柄の数々 が語られていて、その時 大切な何か に気付かなかったとしても、もしかすると何年か後、大人になってみてようやく発見する あなた がそこにいるかもしれませんね。

僕が思うにこの 山荘 は、写真や図面で感じるよりもずっとずっと小さくて、しかもちっとも窮屈でない 心地よいスケール感 があるはず。 たぶんそれは 人の感覚 と、その土地の 森の木々の感覚 から得られたスケールというのがちゃんとあって、それを吉村が知っていたのだということ。 人だけでなく、森に対しても あたたかな眼差し が向けられていた。 ということです。

それは、あるページの 「森に大きく開放された、二階の居間を少し高い位置から撮影した写真」 に見い出すことができます。
近くの森から伐り出されたと思しき、カラマツ丸太の手すりのある見晴らしのよいバルコニーに、建物が建てられた後に植えられたに違いないカエデの木が、十数年経ってようよう成長した証(あかし)として、 ひょい と瑞々しい若葉をのぞかせた 一枚の写真 を発見した僕は、 居間のソファに腰掛けた吉村と、カエデの木が交わしたであろう やり取り を想像せずにはいられないのです。
「こんにちは。 ちょっとお邪魔させていただきますよ」
「やあ。 ようやくお会いできましたね。 待っていましたよ」  …といった具合に。
 
12月01日(水)

モモ・デザイン のファイター・ヘルメット

モモ・デザイン(MOMO DESIGN) は、高品質な自動車用パーツを手がける モモ(MOMO) というブランドから発展した、自動車部品以外の工業デザインを得意とするイタリアのブランドです。

モモ・デザイン は、その名の通り、 デザインやスタイル に対して高い情熱を持つメーカーなのですが、それが単なる表層的なアプローチに終始するのではなく、素材の品質や質感の研究に基づいた技術力を、製品化につなげている点に特徴があります。
チタン、カーボンファイバー、アルミニウム といった現代の素材を適所に取り込んでいますが、工業製品であるにもかかわらず、伝統的な素材であるレザーを組み合わせている点、敢えて手作業を残しているところに、 歴史に裏づけされた モノづくりの奥深さ を感じます。

このような モノづくりに対する考え方 は、実用品であるオートバイ用のヘルメットに 端的に表現されている といえるでしょう。

モモデザインのファイターヘルメット

これは、 モモ・デザイン の主力製品である 「ファイター(FIGHTER)」 と呼ばれるモデルに手を加え、2007年に発表された、標準仕様とは異なる 限定モデル です。
ファイター・ヘルメット のコンセプトは実に明快で、 航空機やヘリコプターのパイロット用ヘルメットが持つ 格好よさ から発想されています。 頭部を保護する という本来の目的と同じくらい 「気分よくオートバイを楽しみたい」 という、純粋な動機に情熱を注いでいるのです。

これに対し、日本の大手ヘルメットメーカーでは、 安全性と機能性、生産性に基づいて製品が開発されている といえるでしょう。 もし、両者を 数値 で比較すると、日本のメーカーに軍配が上がるに違いありません。
それは、当然 モモ・デザイン も承知のことと思います。 その上で、大きなメーカーではできないこと、自分たちでなければつくれないモノ を敢えて提示しているのだ と、僕は解釈しています。

限定版 ファイター・ヘルメット の特徴は、 カーフスキンのレザーを多用しているところ です。 防水性はあるようですが、ヘルメットの常識からは余りにもかけ離れています。
すべては一貫して、この カーフスキンのカラー によってコーディネートされています。

シールド(目の部分をカバーする透明な部材)は、熱処理による特殊な3次曲面加工が施され、周囲を傷つけないよう丁寧にカーフスキンで縁取られています。
シ-ルドの支持は標準仕様はカーボンファイバー製で、これですら驚異的なのですが、ここでは敢てアルミニウムを選択しています。 当然、エレガントなイメージが崩れないよう、バランスを重視しての判断です。
帽体の縁もカーフスキンで保護されています。 これらの作業のいくつかは、間違いなく手作業によるものでしょう。

モモデザインのファイターヘルメット

ヘルメットのロゴカラーがレザーと同色であるのは兎も角として、米国・デュポン社製の内装材までもが同色になっているのは驚きです。 何でも特注カラーだそうです。 内装材がシールド越しに外から見えるので、標準色では許せなかったのだと思います。
それにしても気持ちは分かりますが、ヘルメット一つのためにここまで情熱を注ぎ、やり遂げてしまう モノづくりの姿勢 には頭が下がります。

ファッションの世界では、服装にあわせて靴やバッグをコーディネートするわけですし、これらを使い分けることで、シックにも、スポーティにも演出できます。
もしオートバイにも、上品で控えめな乗りこなし(ファッションでいう着こなし)が出来るようになれば、それはオートバイを含む乗り物が 文化 となりつつあるのだ と、考えてみるとよいのではないでしょうか。 そして、そのためには数値や性能よりも、感性に訴える魅力こそが必要だと思うのです。

ところでこの限定版、発売前年に ミラノのモーターショー で注目を集め、既に完売しておりますのでご心配なく。