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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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11月15日(月)

おかあさんの木

僕が 「おかあさんの木」 と(勝手に)呼んでいる大木がいくつかあります。
何故でしょう。 それは、大きな木は数え切れないくらい多くの鳥や動物、昆虫たちの 命の源 だからです。

なかでも大きな クスノキ はどっしりした幹が、ちょうど大人の背丈の高さあたりから大きく横へと広がって、ゆったりと枝葉を伸ばしているものですから、ちいさなお子さんにはちょっぴり難しいかもしれませんが、木登りが上手に出来るようになると、その幹が分かれる中央のくぼんだ所に、すっぽりと具合良く体がおさまって、実に居心地よさそうなのです。
実際僕は、おかあさんのお腹にいた時と同じように体をまるめて、すやすやと気持ちよさそうに眠っている女の子をみかけたことがあります。

これは、そんな 「おかあさんの木」 のまわりで起こったお話です。

ある日、一匹の柴犬をみかけました。
賢そうな柴犬はまだ子犬ですが、それ程 幼い というわけではありません。
「おかあさんの木」 のまわりは、犬の散歩をする人も多く、皆さん必ずリードから放さず連れ歩く取り決めになっているのですが、その犬は何故かぽつんと一匹だけ…。

誰か探しているようすで、まわりの犬たちにくんくんと懐っこく近づくのですが、飼い主のご婦人たちは決まって毛嫌いするのです。
いつもは ワンちゃんワンちゃん と、出会う犬出会う犬、異常に可愛がっている人たちなのに、もしかしたら彼女たちは血統など、ブランドのお墨付きが許された特定の品種だけを 犬(ワンちゃん) とみなしているのかもしれません。
その子犬には首輪の跡はあるのですが、どういうわけか既に取り外されていたのです。

賢い柴犬は誰にも相手にされないことが分かると、頭としっぽがだんだん下がってきて、何だか元気がなくなってきました。
大好きだったはずの人間も怖がるようになってきたのです。

そのようすを、さっきからみていた男性がおりました。
ややお年を召された優しそうな紳士は、子犬のようすが気になって仕方がないようで、自転車で何度も行ったり来たりしていたのでしたが、おしまいに意を決して歩み寄り、そっと両手を差し出しました。

それから先、何年も何年も、賢い柴犬と老紳士が仲良く散歩する姿を、 「おかあさんの木」 は、そのやさしい眼差しで、いつまでもいつまでもご覧になっておられました。

おかあさんの木
「おかあさんの木」  カラーケント貼り絵、アクリル

 
11月01日(月)

レーベル アンダー コンストラクション のニット

どうしても忘れられないニットがあります。

とあるセレクトショップの店員さんの説明によると、そのニットのタテ糸には 水に溶けやすい性質の素材 が使用されているため、着込んでゆくうちに自然と、しかし確実に 「綻(ほころび)」 が生じ、次第に姿を変えてゆく… という、何と儚くも美しい 詩 のような衣類なのです。
確か7名のデザイナー達によって試みられたブランド(名前は忘れました)のなかの一着で、その一人が ルカ・ラウリニ(Luca Laurini) とのことでした。

それにしても、いくら実験的な試みとはいえ、実際に身に付ける衣類が 消滅してゆく という考え方に対して、疑問を抱かれる方は当然おられることと思いますが、それが一種雰囲気のような ノリ で表現したのであれば、あるいは僕も不快感を持ったかもしれません。 しかし、この目でそのニットをみてみると、もっと大切な 何か が、こちらの こころ に届くような気がしたのです。

僕の手元にあるニットは、前述した ルカ・ラウリニ が、彼の父と共に立ち上げたブランド 「レーベル アンダー コンストラクション(LABEL UNDER CONSTRUCTION)」 から生まれたモノです(写真1)。

レーベル アンダー コンストラクション のニット
(写真1)


カシミア100%の、軽く、やわらかな着心地は、あらゆる部分を極限にまで切り詰めた 隙のない フォルムゆえ、 「これを着るだけで格好よくみえますよ」 といった生やさしいものではなく、良くも悪くも着る人の姿を偽りなく表現してしまいます。 つまり、着る側もつくる側も 逃げ がきかないのです。
したがって、その人自身のからだに沿うように、無理なく素直なラインを描くことが重要になり、理想のラインを実現するために、脇からウエストにかけて、それに肩から袖にかけての縫製部には、実にさりげなく、しかし的確に ヒネリ が加えられているのでした(写真2)。

レーベル アンダー コンストラクション のニット
(写真2)


ルカ・ラウリニの奥儀 ともいえる、高度な ヒネリの法則 によって、アーム部は何となくバナナにも似た有機的なカーブを描くのですが、よく考えてみると、誰もが歩く時も、くつろぐ時も、働く時も、ゆるく肘を曲げていることの方が自然なのですから、快適な着心地を得るためには是が非でもやらねばならなかったのでしょう。
しかし、このような高度な フィット感 を得るためには、当然ながら 厚着はご法度 で、限りなく素肌に近い状態での着用が前提となります。
そうなると、やはりニットですから、特有の ゴワゴワ とした不快な感覚が気になるところですが、何故かそれがないのです。

それは、縫製部の仕舞いがすっきりとおさめられ、カシミアだけが持つ、上質で滑らかな着心地を損ねないよう、惜しみない技術が投入されているのだ ということが分かります。
試しに裏返しにしてみると、「これ、実はリバーシブルですよ」 といわれても、にわかに信じてしまいそうなくらい、また、実際真に受けて、裏返しに着てしまったとしても、何ら問題ないくらいに見事な出来映えです(写真3)。

レーベル アンダー コンストラクション のニット
(写真3)


今こうして、この無愛想なくらい そっけない、それなのに不思議なぬくもりを感じてしまう ニットにそっと手を置いてみると、 つくり手達の声 が聞こえてくるかのようです。

「あなたの 在りのままの 姿 を表現できる 軽くて あたたかい このニットを、私自身も 誤魔化さず 正直につくりました。 なぜならば これを着たあなたは、 ほかの誰でもない たったひとりの あなた なのですから」 と。