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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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07月15日(木)

鴨長明の方丈庵

小鳥の巣のように身近な材料でつくられた、限りなく自然で環境を傷つけない住まい。
あるいは、20世紀を代表する建築家の一人である ル・コルビュジエ(Le Corbusier) が晩年を好んで過ごした簡素な休暇小屋の姿。

飾り気のない、ちいさな小屋のような家は、 普通の生活 という意味では不便この上ないに違いありませんが、今でいう サスティナブルなライフスタイル を究極にまで突き詰めた住まいが、およそ800年前に京のはずれの人里離れた地(現在の京都市伏見区日野町)に 実在していた事 をご存知でしょうか。
きっと、多くの方がご存知のはず。
「方丈記」 の作者として知られる 鴨長明(かものちょうめい) が自ら設計し、晩年の住まいとした 「方丈庵」 がまさにそうなのです(図1)。

鴨長明の方丈庵
(図1)


方丈庵 は、方丈記 の詳細な記述をもとに、中村昌生(工学博士)の監修により復元されていて、長明ゆかりの下鴨神社摂社、 河合神社内でみることができます(糺の森の一角にあります)。

鴨長明 は神官の家系に育ち、和歌や音楽に秀で、宮中に仕えますが、50歳の時に出家し、各地を転々とした末、 どこでも好きな場所に移動できる最小限の住まい。 つまり、容易に組立てが可能で、解体すると車二輌で運搬できる という画期的なアイデアを思いつき、実行します。
それは、一丈(3.03m)四方のワンルーム空間を、地面に石を据え、土台を載せた上に柱梁を組み、杉皮数枚を重ねて屋根を葺き、棟に竹を置き、薄い板でつくられた軽量パネルの壁や建具をはめ込んだつくりで、ざっと5m四方くらいの平坦な土地があれば、人里離れた山中であっても地面を掘り起こす必要もなく、2・3人の大工さんの腕にかかれば ものの半日 で完成してしまうような、きわめて理知的で洗練された住宅なのです。

わずか一丈四方の住まいの様子は、 方丈記 に詳細に記述されていて、その内容はインテリアにまで及んでいます(図2)。

鴨長明の方丈庵
(図2)


それによると、一丈(3.03m)四方のうち、たった半分のスペースが 食事や就寝 などの 「生活の場」 に充てられ、残りの半分をちいさな衝立を使って更に二分し、それぞれを 「仏教の修行の場」 と 「芸術の場」 に特化してしまったのです。もちろん 壁や建具で仕切ることなくワンルーム空間の状態で です。

室内に唯一つ設けられた吊棚にはたった3つの 革かご が置かれますが、そのなかには 和歌、音楽、仏教 に関する書物が収められたそうです。つまり、生活には限りなく 何もない くらいの状態にしても、 芸術や修行のためには譲れない という強い信念があったのでしょう。
驚くことには、移動に配慮してわざわざ折りたたみ式や組立て式の 琴 や 琵琶(びわ) を所有し、その置場所までちゃんと決めてあるのです。

肝心の、しかし真の芸術家である長明自身にとっては左程肝心ではない 「生活」 の方はというと、蕨(わらび)か何かを編んだ夜具に横たわり、外に差しかけた庇の下に竈(かまど)を設け、山から木の実などを集めて調理し、衣類もきっと それ相応 だったのでしょう。
長明は、普通の人では逃げ出してしまうかもしれない暮らしを、
「都の華やかな暮らしとは違う、季節ごとに趣の深い暮らし」 と語り、山の番人の子どもが麓から訪ねてくる様子や、鹿が峰から訪ねてくる様子を説明してくれます。

薄い板一枚隔てて聞こえてくる風の音、水の音など、自然の音を背景に琵琶を奏でる。 そのような住まいを長明は、
「何のためらいもなく、自分に正直になれる家」 なのだと告白するのです。
 
07月01日(木)

ニール バレット と イッセイ ミヤケ の白いシャツ

真っ白なコットン100%のシャツ。

ここにある2枚のシャツは、生まれも育ちも異なる、親子くらい歳の離れた2人のデザイナー(とクラフトマンたち)がつくり上げたモノです。

ニールバレットとイッセイミヤケの白いシャツ

一見同じような、普段見慣てしまったようなシャツも、実はつくり手によって、着心地からまったく違ってしまうものなのです。あたかもその人自身を映し出す鏡のように…。

ニール バレット(NeIL BarreTT) は、3代続く英国のテイラー職人の家に生まれました。
彼は若くして幾つかの有名ブランドでの仕事を成功に導き、イタリアで自身のブランドを立ち上げます。その仕事は一貫して、着る人の体の複雑なカタチに添うような、繊細で美しいラインを描いています。

一枚の布をパーツに分解し、人の体をトレースするかのように構成してゆく縫製技術は、美術や建築同様、西洋の歴史の積み重ねの延長にある 伝統 から紡ぎ出され、創生されたに違いありません。

ニール バレット
ニール バレット の白いシャツ


イッセイ ミヤケ は、美術大学を卒業後、単身フランスへ渡り、自身の血統である東洋的な観念を、異なる西洋のファッションに取り込み、融合させることで、西洋人には真似のできない、彼独自のスタイルを確立します。

人体へのフィット感を突き詰めるニール バレットの表現に対し、イッセイ ミヤケ は、一枚の布を体に纏う(まとう)ような感じ といったらよいでしょうか。 衣類とからだの間には 適度な空気の層 があり、その みえない空気 が洋服のカタチとして成立しているのです。
一見、体にそぐわないかと思われる衣類は反面、布固有の色彩や素材感を与えることで、多彩な表情を醸し出すことが可能となります。

イッセイ ミヤケ
イッセイ ミヤケ の白いシャツ


フィット感の高い ニール バレットのシャツは、高度なデザインと縫製技術ゆえか、窮屈さとは無縁で、限りなく体の一部に近い存在となりますが、隙のない 完成されたシルエットに見合ったパンツやジャケットを慎重に選択する必要があります。

大らかな イッセイ ミヤケのシャツは、ニール バレットの細身のパンツにも、リーバイスの501にも自在に組み合わせできる 懐の深さ があるようです。

なんだか対象的な感じの2枚のシャツですが、どちらも反発することなく、仲良く並んでもおかしくないように僕の目には映るのです。
きっと二人とも、人種や国境を乗り越えて、着る人のためにモノづくりをしているからではないでしょうか。