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アトリエかわしろ一級建築士事務所

Author:アトリエかわしろ一級建築士事務所
「がま口から建築物まで」
日々の生活につながっている モノづくり・住まいづくりのためのデザイン事務所です。

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03月18日(木)

ベルスタッフのオイル引きブルゾン

日本人は、自分たちを取り巻く生活や自然のなかから様々な色を見い出し、その繊細な感性を美しい色彩名として表現してきました。
東雲色(しののめいろ)、 菜の花色(なのはないろ)、 露草色(つゆくさいろ) などです。
鳥から名付けられた色も幾つかあるようです。 朱鷺色(ときいろ)、 鶯色(うぐいすいろ) などです。

それにならって僕は、今回ご紹介するブルゾンの色を 「濡羽色(ぬればいろ)」 に例えてみたいと思います。
濡羽色とは、カラスの羽が濡れたときのような、艶のある深い黒色を表します。

ベルスタッフ(Belstaff) は、1920年代に創設されたモーターサイクリスト、つまりオートバイに乗る人のための、防水性の高い衣類を手がける英国のブランドです。
まだ、ナイロン素材に代表される化学繊維がなかった時代、綿生地に天然オイルを染み込ませることで防水性と通気性を兼ね備えた 「ワックスコットン」 と呼ばれる素材を採用した ベルスタッフ のライダースジャケットは、オートバイを愛する紳士たちに支持され、今日に至ります。

このオイルを含んだ黒いワックスコットンの質感をみると、日本人である僕は 「カラスの濡羽色」 を連想するのです(写真1)。

ベルスタッフのレースマスターブルゾン
(写真1)


ベルスタッフ のワックスコットンは、着込む程に味わいを増し、防水性が衰えても新たにオイルを浸透させることが可能という、とても魅力的な性格を持つ一方で、 触るとオイルが付着するため(特に新しい時)扱いには慣れと覚悟が必要なこと。 洗濯してはならないこと(ドライクリーニングも不可)。 ハイテク素材を駆使した便利で高性能な製品の台頭。 等の理由により、一時期は細々と生産を続けていた印象がありました。

しかし、21世紀に入って間もなく、生産拠点をイタリアに移行し(買収されたようです)、ブランド力を高める方向に転換しました。
伝統的なワックスコットンの生産を継続する一方で、伝統に敬意を表しつつ、現代のモードに配慮したヴァリエーション展開を図り、洗練されたブランドイメージが定着しつつあります。 その影響で、価格も段階的に上がってきていますが。

レースマスターブルゾン と呼ばれるモデルは、そのヴァリエーションの好例といえるでしょう(写真2)。

ベルスタッフのレースマスターブルゾン
(写真2)


オートバイに乗るということは、すなわち全身をさらして走行することなので、当然、風圧や危険から身を護るために衣類でガードすることが重要です。このため、伝統的な ベルスタッフ のモデルはジャケットの丈を長めにして、風でばたつかないようにベルトでしっかり締め付けていました。
これに対し、より軽快で、日常のファッションの延長線上にも位置づけられるように、丈を短く、全体をよりタイトにしたモデルが生まれることになりました。素材は昔ながらのワックスコットンで、デザインの要素も全て伝統を踏襲していますが、印象はかなり違ったものになっています(図1)。

伝統を継承したデザイン手法
(図1 伝統を継承したデザイン手法)


このような発想方法は、美しいモノに敏感で、伝統の重さも知っているイタリアという国の得意とするところであり、伝統の灯を絶やさないための一つの好例といえるでしょう。

カラスの濡羽色のような、含みのある繊細で美しい表現方法も絶やさず伝えたいものです。
 
03月05日(金)

瓦の欠片(かけら)

桜は華麗。 梅は可憐。

甘い香りに誘われて、ふらふらと梅林をさまよいました。

丸いちいさな蕾が、ぽつぽつと膨らみ、ようよう花が咲き始めた頃合いが、華やかとはいえないけれど、慎ましいのです。
梅の枝ぶりは、桜や楓などのようにスマートではなく、お世辞にも美しいとは思っていませんでした。 少なくとも昨年までは。
どこか不器用で、何だか突飛な感じがしていたからでしょう。 それに、幹や枝は黒くてがさがさしているのですから。

それが先日は、蕾が膨らんで、昔の古い感じのよい住宅などで度々みられたような、あの裸電球を覆うやわらかい乳白ガラスのシェードのような花びらのかたちが、ごつごつの枝によって、余程可憐にみえるのではないかと考えました。
苔むした老木ほど、そう思えるのです。

でこぼこした山の中なら兎も角、平坦な梅林の中でも、どの幹も、めいめいが勝手に捻じ曲がって真っすぐではないのですが、それが却って素直で自然の事のような気がしました。

そのような美しさの秘密を知っている、草や枯葉に覆われた土に目をやると、ちいさな欠片(かけら)が誰にも知られずにうずくまっておりました。
皆、花に夢中で気づくはずもない瓦の一片に、お互いだけが分かりあえたような親しみを感じ、そっとハンカチに包み、持ち帰りました。

明治初期までは、公家屋敷が建ち並んでいた土地の歴史から考えると、江戸時代以前の瓦なのかもしれません。

瓦の欠片(かけら)

この欠片をみる度、きっと思い出すことでしょう。 桜は華麗。 梅は可憐。 と。